甲状腺機能亢進症および低下症のエコー診断

甲状腺ホルモンの働き

甲状腺ホルモンは、新陳代謝を促進させ、また脈拍数や体温、自律神経などの働きを調節し、エネルギーの消費を一定に保つ働きをします。

甲状腺ホルモンの発生機序

血中の甲状腺ホルモンが低下

視床下部から甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)
下垂体前葉から甲状腺刺激ホルモン(TSH)が放出

甲状腺から甲状腺ホルモンが放出

甲状腺で作られるホルモンは、ヨウ素を3個持つトリヨードサイロニンン(T3)とヨウ素を4個持つサイロキシン(T4)の2種類。甲状腺ではおもにT4が作られ、T3は20%が甲状腺で作られる。

甲状腺機能亢進・低下の症状

甲状腺中毒症

甲状腺中毒症とは、血中の甲状腺ホルモンが多い状態であり、甲状腺が甲状腺ホルモンを多く作りすぎる状態を、甲状腺機能亢進症と呼ぶ。大きく分けると、バセドウ病、破壊性甲状腺炎、機能性甲状腺腫瘍(プランマー病)がある。破壊性甲状腺炎には無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、橋本病の急性増悪、急性化膿性甲状腺炎がある。頻度的に多いのは、バセドウ病、無痛性甲状腺炎に続き、亜急性甲状腺炎である。

1.バセドウ病

自己免疫疾患のひとつ。抗TSH受容体抗体(TRAb)という甲状腺を刺激する自己抗体が産生され、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される。20〜40歳代の女性に多い。

甲状腺の腫大。血流増加。

無痛性甲状腺炎が鑑別となる。抗TSH受容体抗体(TRAb)陽性。甲状腺シンチ取り込みあり。

治療法:内科治療(80〜88%)、アイソトープ治療(11〜19%)、外科治療(1%)

2.破壊性甲状腺炎

無痛性甲状腺炎:

慢性甲状腺炎(橋本病)に何らかの原因が加わり、甲状腺が破壊されて血中の甲状腺ホルモンが増加した病気です。大きく分けると、出産2~6ヶ月後に起きる場合と出産に関係なく起きる場合があります。出産に関係のない場合は、甲状腺機能亢進症との鑑別が必要となります。

甲状腺腫大は半数。抗TSH受容体抗体(TRAb)陰性。甲状腺シンチ取り込みなし。

1~3ヵ月で自然治癒するため治療は行わず経過観察。

亜急性甲状腺:

ウィルス性感染

自然痛、圧痛あり。急性化膿性甲状腺炎と症状が似ているため、注意が必要。

TSH受容体抗体(TRAb)陰性。エコーにて、疼痛部に低エコー域あり。また、甲状腺シンチにて疼痛部にhot noduleあり。

治療 ステロイド鎮痛薬

急性化膿性甲状腺炎:

①甲状腺内の低エコー領域は片側性が多い(特に下咽頭梨状窩瘻は左側)。甲状腺悪性リンパ腫のような入道雲様の事も。
②甲状腺外の低エコー領域は滲出液・膿瘍で、頭内側に多い
③腫瘍内感染では、腫瘍内に低エコー領域、腫瘍の周囲に不均一な低エコー領域
④嫌気性感染では、ガス像
⑤cold abscesss(冷膿瘍)は、痛みなく、炎症反応なく、エコーでニボー(液面)形成。

3.機能性甲状腺腫瘍(プランマー病)

甲状腺内の腫瘤がTSHに依存せず自律的に甲状腺ホルモンを分泌することで甲状腺中毒症(機能亢進)を呈する疾患です。プランマー病では、TSHが機能しなくなるため、しこりの周囲の甲状腺組織はホルモンをつくらず、休眠状態になってしまいます。血液検査では、甲状腺ホルモンやTSHの量を調べます。TSHは低い数値でも、甲状腺ホルモン(T4、T3)は正常という場合もあります。バセドウ病ではないため、自己抗体(TRAb)は陰性です。

ホルモンを過剰産生するしこりは、1つの場合(単結節性)と複数の場合(多結節性)とあります。バセドウ病が、甲状腺全体でホルモンを過剰産生するのに対して、しこりの部分のみの過剰産生であり、甲状腺シンチにて、しこりの部分だけにヨウ素が取り込まれていることが確認できれば、診断が確定します。ホルモンを過剰産生するしこりが悪性であることは稀で、ほとんどが良性腫瘍です。

甲状腺機能低下症

1.橋本病

橋本病とは、リンパ球の浸潤した甲状腺の慢性炎症、つまり、自己免疫による甲状腺の慢性炎症です。甲状腺機能低下症の代表的疾患と思われがちですが、甲状腺ホルモンが正常か、低下しているかは関係ありません。甲状腺ホルモンが正常な橋本病も存在します。

甲状腺の慢性炎症のため、甲状腺が腫れます。バセドウ病の甲状腺腫と比べ、橋本病の甲状腺腫は硬く、表面に凹凸あります。超音波検査で内部エコー低下や不均一を認めるものは慢性甲状腺炎(橋本病)の可能性があります。

橋本病でも甲状腺内血流の増加が起こります。橋本病における甲状腺内の血流は、甲状腺機能低下の程度、特に甲状腺刺激ホルモン(TSH)の上昇度と相関します。TSHが血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を増加させることが原因と考えられます。甲状腺機能亢進症/バセドウ病のカラードプラ所見に似ていますが、症状が真逆なので鑑別は容易です。

2.甲状腺疾患治療後

甲状腺切除後、放射線ヨード治療後、抗甲状腺薬の過剰投与

3.中枢性甲状腺機能低下症

多くが下垂体や間脳にできる腫瘍で、下垂体が圧迫され、下垂体でのTSHの分泌が減り、甲状腺機能低下症になります。他に、下垂体・視床下部の手術後、放射線照射後、TSH分泌を抑える薬剤、頭部の外傷、脳血管障害、下垂体炎などが原因となります。

血液検査ではFT4値が低値にもかかわらず、TSH値が高値を示しません。

臨床検査による疾患の鑑別

FT3 はNTI(nonthyroidal illness,low T3 症候群)に よって甲状腺機能を正確に反映していない場合 があるので注意。

エコー検査では何を見るのか

  1. 腫大はないか
  2. エコーレベルの低下はないか
  3. 血流信号の増加はないか

以上、3つを観察する事が重要ですが、観察者の主観が大きく作用するため、甲状腺に関連するホルモン値と各種抗体と併せてご評価ください。

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